停滞している日本のミミズ研究を大きく促進させる待望のミミズ図鑑が出版された.大型のミミズ(フトミミズ,ツリミミズ,ジュズイミミズ)類の名前を知るため,まず観察すべきミミズの外部形態 (雄性孔,雌性孔,背孔,受精嚢孔,性徴の位置やその形態)や内部形態(腸盲嚢,受精嚢,生殖腺など)をわかりやすく図や拡大写真などで示し,同定の仕方を述べ,普通種(全国に分布する種,広域に分布する種,主として関東地方で普通な種)57種について,その分布,形態の特徴を解説したものである.どれも同じように見えるミミズだが,カラー写真で体色,体型のちがいがわかる.ミミズ採集法,標本作成法,解剖法,標本保存法も述べられている.

戦前,東北大学を中心に盛んであったミミズ研究は戦争により大きく停滞し,戦時中の研究をもとに1956年,大淵眞龍が琉球列島のミミズ相を発表して以来,日本産ミミズの種数は増えなかった.新種がでなかったのでなく,誰も同定・新種記載できなかったのである.著者の石塚小太郎さんは高校教諭の傍ら,独学でミミズ研究を始められ,1999年,東京・多摩地区などで採集されたミミズ95種のうち80種が新種だとしてとして記載された.ミミズ研究談話会ではこの学位論文をテキストに,これまで11回のミミズ分類講習会を開催してきた.ミミズ研究進展のため,その出版をお奨めしていたのだが,今回,これに土壌動物写真では定評のある皆越ようせいさんのカラー写真が加わって,よりすばらしいものになった.ミミズの写真はもちろん,交接(交尾),放卵(産卵)などの写真も貴重なもので,ミミズへの興味を惹きたてる.

しかし,本書でも正直に述べられているが,ミミズ分類が進めば日本産ミミズは500種に達するのではないかとされる.掲載されたのはわずか10分の1ということになる.身近なところにいるミミズの名前がわかる一方で,すぐに同定できないもの,未記録種(新種)が発見されることになるのだろう.これら不明種のミミズを集積することで,次のステップに進め,増補改訂版として近い将来500種全種掲載の図鑑の発刊が期待できる.同時に,普通種とされるミミズの全国的な分布,種名が確定されての生態研究が始められよう.

学校の図書室にぜひ備えて欲しい一冊である.(京都府京都市:渡辺弘之)

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